「オメガ スピードマスターPRO」impressionオーバーホール編 ~分解~

色々と過酷な実験を行いクロノ針が15秒~20秒の位置でリセットをすると帰零しない問題がありました。
原因はクロノグラフランナー(クロノ車)のハートカムの油切れでした。
元々OHをする予定でしたのでちょうどよかったです(笑)。
OH編は2回に分けてお送りいたします。


針を抜きます。
キズ防止のためビニールを使用します。
私の抜く順番は「12時間計針」→「秒針」→「30分計針」→「クロノ針」→「長針・短針(一緒)」です。
でも順番はどうでもいいのですが・・・。


よくあるトラブルその1。
30分計針を抜くとハカマだけ残してご覧の通り頭だけが取れてしまいます。
最近のロジウムメッキされた「Cal,1861」の30分計針は何故か非常にきつく取り付けられているため、
どんなに慎重に抜いてもハカマが残ってしまうことが多々あります。
金メッキや赤金メッキの861ではこのようなトラブルは無いのですが・・・。
修理を始めた初期の頃は自分が下手くそだからだと思っておりましたが、最近はメーカーのせいにしております(実際そうだし)。
ということで、30分計針のストックは大量に揃えています。


小針3本を抜いたら、クロノ針を先に抜きます。その後に長針・短針を抜いていきます。


小針各種です。左から秒針、12時間計針、30分計針です。何となくハカマの違いが分かりますか?


横から撮ると違いが一目瞭然。
秒針(左)のハカマが細く長い、12時間計針(中央)のハカマは太く短い、30分計針(右)のハカマは太く長い。
ETA7750系や2階建式の小針のハカマは同じ太さ長さなのですが、スピマスプロの小針はそれぞれ入れる所が決まっているので作業は楽です。


文字板の足を留めているネジです。ちなみに画像の赤い機械台は861専用で五十君商店さんから購入しました。
かなり使えるスグレモノです。


文字板を外しました。


12時間計関連です。リセットハンマーと12時間計車押エがこの位置だとクロノグラフがスタート状態です。
リセットハンマーの出っ張りと12時間計車押えレバーが当たって、物理的にリセットレバーを押し込めない構造です。


ストップ時です。が12時間計車に接触して動かないようにしています。
たまにストップ状態でも12時間計針が勝手に動いてしまうことがあります。
その原因はこの12時間計車押えレバーまたは、12時間計車の歯が磨耗しているか、後述する香箱のカナの油切れ(不足) のためです。


リセットボタンを軽く押したところです。リセットハンマーの下の出っ張りと12時間計車押えレバーが接触します。
Cal,321や861の古い機械でカチッと気持ちよくリセットできないことがよくありますが、
その原因は12時間計車押えレバーの接触するナナメになっている部分(リセットレバーのデッパリと接触しているところ)が磨耗しているためです。
それを直すにはナナメになっているところをアルカンサス(仕上砥石)で研いであげるとあのシャッキリとした感触が蘇ります。


リセットした状態です。
かなり強い力で叩くので12時間計車の真(ホゾ)は丈夫に太く作られております。
12時間計針のハカマが太い理由はこの為です。


12時間計針リセットハンマーのバネです。左が現行の1861、右が昔の861です。
厚さの違いがお分かりいただけますか?


ノギスで測ってみました。


1861は0.22mm、昔の861は0.33mm。
なぜ厚さが変わったかは定かではありません。


裏輪列の各パーツを外して裸にしました。ちなみにテンプの受け石も外しております。
裏押え等を外さないのはゼンマイを解くために残しております。


表に取り掛かります。キラキラした綺麗な機械です。


半分分解しました。
クロノ車押さえがプラスチックです。クロノ車の細かい歯には優しいのですが、個人的には嫌いです。


クロノ車、30分計車受けの裏側です。
右端にあるレバーは30分計車の歯にかなり軽い負荷でテンションを与え1枚1枚確実に送らせます。
30分計はりがスー・・・カチッと送られるのはこのレバーに秘密があります。


横から見たところ。


外したところ。


受けを外した地板です。左から4番車の出車、クロノ車、中間車、30分計車が見えます。
クロノ車(左から2番目の歯車)のハートカムが見えますね。
この時計のリセット不良の原因はここの油が切れているためでした。


裏側から見たクロノ車です。


ピンセットで指しているレバーが中間車に接触して30分計車の歯を1枚送ります。
このレバーにはバネが隠されており、リセットする時は中間車に接触するとレバーが引っ込むので「861」ではスライディングギアーが省略されました。とても頭のいい構造です。


ゼンマイを解いています。
赤い工具は折れたオイラー(油差し)を廃品利用しています。
細く硬いのでなかなか重宝しております。


出車を抜きます。使う工具は針抜きです。
1861は特に非常にきつく締められている場合があり、そのまま抜くと穴石ごと取れてしまう事があります。
(初めて穴石ごと抜けた時はかなりビビりました・・・)
そこで、抜く前にはホゾに油を大量に垂らし滑りを良くしますが、未だにビビりながら抜いております。
また、ここでもビニールを使っています。
これは傷防止は勿論ですが、被せず抜くと抜いた瞬間「ピンッ!」といい音がして出車がどこかへ勢い良く飛んでいきます。
そうしたら床を這いずり回って探しますが、発見はほぼ絶望的です。(作業場を整理しろ!という声はあえて聞きません)


慎重に抜きます。
抜けた瞬間は「プチッ!」とホゾが折れたような嫌な音がします。
いつまでたっても慣れない音です。


テンプ受けの裏側です。
テンワ右上に窪みが見えますが、これはバランスをとる為えぐった後です。
姿勢差が激しい時はこのようにテンワのバランスをとって調整します。
その方法は秘密ではないのですが長くなりますので今度、機会があればそのうち・・・。


輪列受けを外しました。
基本的な構造は普通のスモセコ輪列を同じです。


輪列受けの裏側です。
左側の歯車は丸穴車、右側の丸っこいレバーはコハゼです。


香箱です。
中心の小さい歯車(カナ)がクロノのスタート時には12間計車にダイレクトに動力を伝えます。
ストップ時にはカナは回転しないで香箱だけ動きます。
ですので、このカナはある程度カナ押さえでテンションを掛けておりますがクルクル回転する仕組みになっております。
このカナが空回りしないとストップ時でも12間計針がつられて動いてしまいます。


カナとカナ受けを外しました。


やっぱりビニールを被せて香箱を開けます。
そのまま開けると中身が全て爆発します。


ゼンマイです。
ゼンマイはいつ切れるか予測不能。OH直後に切れると思わず泣いてしまいます。
ちなみにゼンマイの収まりは3等分法といって香箱真の半径、隙間、ゼンマイの幅がそれぞれ同じがベストと言われております。
ゼンマイが長ければいいってもんじゃないそうです。


裏押さえを外しました。
861は小鉄車(小さい歯車)が2枚使われております。
これで針合せ時の負荷を減らしています。


ゼンマイとテンプをバラしていないので完全なバラバラ写真ではありませんが、これで洗浄の用意は出来ました。


もう一枚。
ちょっと近づいて撮影。ちなみに通常のOHではパーツを並べません。これは非常に面倒くさい。
私も初めて並べてみました。かなり時間が掛かります。
もう2度としないでしょう(笑)。

「その2」は組み立て編です。お楽しみに!

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